備忘録。

 不定期健診。
 2015/09/01

「先生、これはなぁに?定期健診?」
彼女がふんわり笑いながら僕を前髪の隙間から見上げる。
正しく言うなら不定期健診だろう。
彼女が受けたい時に何度でも受けれる、僕の検診。
言葉と、体と、頭の中を隅々診よう。
彼女の前髪を僕がかき上げると、自然と彼女の顔も上がる。
細く長い滑らかな首筋が際立って、ゆっくり唇を落とした。
今日の彼女は懐かしい歌声に思考を痺れさせたようだ。
愛らしい声が、長く慈しんだ声が、郷愁に襲われるような懐かしさにさせた。
「いつでも昔の気持ちに浸れるきっかけを持ってるって、いいね。」
うっとりしたような、陰鬱なような、彼女にとってはどちらも美しいものなんだろう。
「おわったらおやつ頂戴。」
僕のたくさんのキスが首筋から太もものあたりまで下がってきた時、
さっきまで影を纏う少女のような顔をしていたのに、今は娼婦のような色の笑いでそっと僕の頭を撫でる。
ああ気持ちいい。
彼女は一人で思考をぐるりとさせて言った。
「君は白い悪魔だね。」
くつくつと笑うと、いたずらっ子な少年みたいだ。
ああ、終わったらおやつをあげよう。
甘くて冷たいおやつ。
今彼女がすぐに熱くなるだろうから。


 約束、雨音。
 2015/05/16

若いときの気持ちを持ち続けているのは良いね。
僕はもう亡くしてしまったもの。
彼女が遠い目をして、呟く。

彼女は僕が居なくなるのを危惧していた。
また彼女が彼女を亡くしたら、もしくは新しく生まれたら、僕は必要でなくなるのではないかと。
必要でないと言うことは、僕が居なくなってしまうと言うこと。
彼女の不安など杞憂なんだ。
どんなに彼女が死んでも生まれても、彼女が彼女であるのだから、僕が不必要になることありえない。
だから、僕は優しく否定する。
いつまでも側にいるよ、と。

ほら、薄くあけた窓から聞こえるよ。
君の大好きな優しい雨音。
僕の声と同じ。
君の大好きな声。
君の大好きな僕。


 ミスティレイン。
 2015/05/10

いい言葉も見つからぬまま、歯を食いしばる彼をじっと見ていた。
根本の理解ができないなら黙秘すべきだと。
ただ、頼れる彼女の名前を叫んでいた。
私の力ではどうにもならないと。

正義感ぶった言葉の礫を標的に投げていた。
投げていたはずだった。
それは一つもあたることなく、そもそも方向も定まっていなかった。
あらぬところに落ちては鼻で笑われる。
悪魔に実体はない。
全て通り抜ける。


その日、霧雨が降った。
とても温かい。
私はそれを待っていた。待ち望んでいた。
だから期待した。
霧雨でありながら、私を貫いた。
でも、それが欲しかった。
それが嬉しかった。

本当の気持ちに気づいているのに。
ただ、ありふれた言葉を言うのが出来ないなんて。
なんて哀しいんだろう。なんて、融通の利かない世界なんだろう。
世界は貴方と貴女、それだけで良かったはずなのに。
それを許さないのは、あなたね。
守りたいと思いながら、壊してしまうのは、結局みんな同じ穴だからだ。


 またね。
 2015/04/15

あーつまらない人生だった。
「でも、僕といる時間は幸せだったでしょ?」
…ああ、そうだね。
「僕に愛されるのは幸せだったよね。」
そうだね。

君がいて、本当に幸せだった。
助けて先生、って呼ぶ声が聞こえたよね?
ねぇ、覚えていたら、残しておいて。
今かわした言葉を、残しておいて。
たのんだよ。


「次はもっと甘えん坊にしようね。
こねこねして、もっと甘えん坊に。」


 嬉しいです?
 2015/03/20

愛されることに慣れなければいけないね、とあなた。
それは何ですか?
変わっていないね。
十年も前から同じことを言っている。
嬉しいです。

愛されることに慣れてしまったんだね、と誰か。
それはナニですか?
愛されているのは体だけだよ。
五年も前から気づいている。
浅ましいです。

あー、あー、喉から漏れる声が響いて虚しく戻ってくる。
暖かくした浴室。
冷たくなる床に這いつくばる、わたし。
それはオナニーです。
愛されてると感じる脳。
十年も前から同じことをしている。
いやらしいです。
もっと欲しいです。
嬉しいです?
浅ましいです。


 君が大好きな僕。
 2015/03/18

君が掴むための裾を探すなら、
宙に浮いたその手は僕が握ろうね。
君が悲しみに溺れたなら、
息ができるように口を付けよう。

静かで優しい歌声が好きなら、
ピアノと一緒に歌うよ。
「君が大好き」な僕。


君がいないと死んじゃうなんて、大袈裟だって笑うけど。
そんなところも好きだけど。
嘘じゃないよ、君がいないと眠ることさえ上手くできない。

目の中にハートを浮かべて、見つめたら星が落ちてきた。
大きな星に二人ぼっち。
君が「大好きな僕」。


 貴方のその目が私を狂わすの。
 2015/02/22

専用道路で飛ばして、渋滞をくぐって。
親切なアドバイザーにお礼の微笑みを。
窓から見た走る夕暮れを、もう忘れて。
あの人のアプローチもまるで無かったみたい。

あやふやな記憶に消えるのは、とても効率的。

貴方の目が私を射抜くのは、そういうことなの?
溶けるように密着した温度は。
骨をくすぐるみたいで、あ、息が止まる。

貴方の目が私を捕らえるのは、どういうことなの?
幸せな私。幸せな二人?
煙がまとわりつくように、貴方のにおい。

あやふやな私が消えないのは、初めてで。
その目に私を写すのをやめないで。

貴方の目が目が目は目の目をぐるぐるぐるぐる黒々とした目の中に私がいるの。


 新年のご挨拶。
 2015/01/28

もう、1月終わるというのに新年のご挨拶。
羊っ子かわいいです。
大きいサイズはピクシブに。
http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=48143503

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 はまった時。
 2014/12/22

先月は着物を仕立てました。
今月の頭には出来て、差し上げました。
そうしたら、その着物に合う帯や櫛ががないとおっしゃるので、それならとまた同じ店で好い者をあつらえました。
彼女はあの店が気に入ったようで、私も嬉しかったのですが、それでもまだ足りないのでしょう。
彼女の嬉しそうな顔は、何度見ても仕合せなものです。
出来れば、彼女が見たいと言った舞台にもつれて行きたいのですが、見世から出られないのだから仕方ない。
次も直ぐに逢えるように、仕事を調整しないと。

薄々気づいてはいるのです。
彼女は仕事なのだから、私のようなつまらない人間の話にも、楽しそうに耳を傾け、また嬉しそうに微笑んで触れるのです。
冷たい床が暖かくなる時間には、お別れの挨拶をしなければならない、その繰り返し。
それでも、寂しそうにさよならを言う彼女が、何より頭から離れずに、少しでも私を覚えていて欲しくて、ただただ欲は膨れるばかり。

頭の痛い話だと、母がぼやいていたのを思い出して、私の頭も痛くなりそうだった。


 落ちた時。
 2014/12/02

色とりどりのぼんぼりが見世の格子を照らしながら揺れる。
格子の奥に座る女性と、ふと目があった気がしたのだが、気のせいだろうか。
それともそれが、彼女の誘い方なのかな。
廓は恐ろしい処だ。
遊んでいるはずが、遊ばれてしまい。
落ちていないと思えば、すっかり抜け出せなくなっている。
私はどちらになるんだろう。
茶屋の男に話を付けた。
不思議な気分だった。
今まで親の言うとおり生きる、つまらない人間が、ほんの少しだけ言うことを聞かずに選択した。
それで何かが変わるわけでもない。
今まで通りつまらない私だ。

「わっちを見ていたでありんしょう?」
ゆったりとした調子で、それにあわせて振り向く。
本当に美しい人だ。
どうしてこれで一番ではないのか。
大見世には、もっと美しい人でもいるのだろうか?
それとも器量だけではいけないのか。
「目が合ったと思うのですが、私の勘違いではなかったのですね。」
嬉しくて少し上がる声色を見て、彼女はくっくっと笑い出した。
「勘違いでありんしょう。」
意地悪げな笑みで、きちんとこちらに向き直った。
やはり私の勘違いだったんだろう。
確かに目の合った彼女は、さっきよりずっと美しく魅力的な笑みをしている。


 

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